[AIDA]受講者インタビューvol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
[AIDA]は〝すぐに答えの出ない問い〟を考える場だ
中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)は、『リーダーが変われば、チームが変わる』や『最高の結果を出すKPIマネジメント』など、10数冊のビジネス書を執筆し、数々の企業の経営に参画する経営コンサルタントである。経営者・ビジネスリーダー向けの「中尾塾」を主宰し、人材育成にもあたっている。
そんな中尾さんは、リクルートに所属していた2010年に、企業派遣で前身のハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]06期に参加。起業してからは、Hyper-Editing Platform[AIDA]シーズン1からシーズン3まで、オンライン受講者として3年連続で参加している。
日頃は人を育てる立場でもある中尾さんは、[AIDA]で何を学んでいるのだろうか。
中尾隆一郎(中尾マネジメント研究所代表)
1964年大阪生まれ。大阪大学大学院工学研究科卒業後、リクルートに入社し29年間勤務。リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートワークス研究所副所長などを歴任。リクルート社内大学で「KPIマネジメント」「数字の読み方・活用の仕方」の講師を11年間務めた。2019年に株式会社中尾マネジメント研究所を設立。専門は事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織創り、KPIマネジメント、管理会計など。
自ら塾を主催しながら[AIDA]で学ぶ
――中尾さんは、現在、「中尾塾」で経営者や次世代リーダーの育成に携わっています。
中尾:もともとリクルートに29年間、勤めていたのですが、その間、13回の異動がありました。住宅、ITテクノロジー、人材、ダイバーシティ、管理会計、事業監査……とさまざまなジャンルを経験したことで、物事を多面的に捉えることができるようになりました。
例えばSUUMOカウンター推進室室長の時には、店舗数を12倍、従業員数を5倍に増やしました。通常、従業員が増えると、働く環境が悪化しがちなのですが、この時は従業員エンゲージメントが高く、売上も6年間で30倍になりました。どのようにしたかというと、徹底的に現場に権限を委譲したんです。KPI(重要業績評価指を可視化し、目指す方向と経過を共有することで、自律自転する組織が生まれました。今は経営コンサルタントとして、あるいは「中尾塾」主宰者として、この経験を伝えています。
――教える側でもある中尾さんが、[AIDA]で学び続けているのはなぜですか?
中尾:一般的な社会人相手の塾は、カリキュラムが変わらないので、一度学ぶと卒業になります。ところが[AIDA]は毎シーズンテーマが違い、毎講さまざまなゲスト講師が講義をします。毎シーズンまったく異なる問題意識が生まれます。
[AIDA]は未知の良書に出会える場
「課題図書」もひとつの理由です。シーズン3で課題図書としてあげられたのは、中世文学の評論に万葉集、折口信夫にデザイン論など。どれもビジネスシーンでは選ばない本です。私は毎年100冊の読書を自分に課していますが、まず出会ったことのないような本ばかりです。毎回手強くて、泣きながら読んでいますよ(笑)。でもこの「日頃、自分が選ばない本」というのが大事なんです。
[AIDA]を通じて、信頼できる未知の良書に出会える。この刺激は、得がたいものがあります。特に今回は、通しの課題本として[AIDA]座長の松岡正剛さんの『知の編集工学』が挙げられていましたが、改めて読み直して、[AIDA]の骨子となっている、編集工学の世界観を深く知ったような気がします。
松岡座長の視点に追いつきたい
――未知の領域に知を広げていける、というのが中尾さんにとって魅力なんですね。
中尾:私は、「情報の量は質を凌駕する」と考えています。圧倒的な情報量を有していると、判断の間違いが起きにくくなるのです。では、今いちばん、「情報」に通じているのは誰か。松岡さんでしょう。松岡さんは「情報の権化」です。古今東西の知を身に纏っている。しかも最新の研究まで網羅して、アップデートし続けているのですから、どうなっているんだと圧倒されます。
ライブセッションの終わりには、松岡さんが総括をするのですが、私は必ず、「今回はこんな締めの言葉になるんじゃないか」と予測を立てて臨みます。ところが、いつも斜め上の想定外の言葉が返ってくる。「なぜ自分はその結論を導けなかったのか」と回を終えるたびに、内省しています。
松岡さんの知は、会うたびに拡大している。追いつきたいと思っているのに差分が縮まらない。私が毎期、[AIDA]に参加したいと思うのは、そうした理由です。
▲シーズン2【メディアと市場のAIDA】第3講ではライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」を、AIDA一行がまる2日間ジャック。中尾さんの「自分史クロニクル」も番組として配信された。昭和から平成と年号が変わった年であり、自身がリクルートに入社した1989年を自身のキーイヤーとし、自分史を語った。
効率化は〝深く思考する時間〟確保するため
――[AIDA]では正解のない「問い」に向かいます。最短ゴールを目指すのではなく、むしろすぐに答えの出ない問いこそを重視しています。一方で、中尾さんは著書で「効率化」を訴えています。一見[AIDA]での学びと相容れないようにも思えるのですが。
中尾:いえ、まったく矛盾はありません。私の考えは[AIDA]の方向と重なっています。私がいう「効率化」の目的は、「自由な時間を生み出すこと」にあります。些末な仕事に追われて、自分の時間をなくしているのが、ビジネスの現状です。ここに、KPIなどの方法を持ち込むことで効率化を実現し、余白の時間をつくる。そして、その時間をつかって思考するのです。「すぐに答えの出ない問い」を考えるには、時間を確保する必要があるのです。「重要なこと」ほど、簡単に答えが出ませんから。
――仕事の時間短縮は、「思考の時間」を確保するためなのですね。
中尾:その通りです。[AIDA]では、松岡さんだけでなく、ボードメンバーの田中優子さん(元法政大学総長)などから、毎回、問題提議がなされます。何が出てくるのか毎回楽しみである反面、常に、新たな問いを突きつけられる。深い思考でなければ太刀打ちできない「問い」です。[AIDA]では、思考の仕方や、表現の方法だけでなく、「問い」の立て方そのものも、学んでいるのだと思います。
オンライン参加でも学びが深まる「連」の仕組み
――中尾さんは、シーズン1からずっと、オンラインで参加されていますね。いかがですか?
中尾:隣の人と休憩時間に話したり、参加者同士の交流ができるのは、リアルの場に利点があると思いますが、私はコロナよりずっと以前からビジネス上でオンラインを導入したこともあり、[AIDA]もオンライン参加を選びました。オンラインの配信環境も整っていて、オンライン参加組も心的負担なく参加できているんじゃないかなと思います。講義の他にも「連」という座衆(受講生)が学ぶ場がネット上に設定されており、私たちはそこに、毎回、課題を提出して事前事後の学びを深めています。AIDA師範代の指南も丁寧で、これ自体が大きな学びです。
▲[AIDA]の「連」の仕組みの図(Hyper-Editing Platform[AIDA]とは)。連では7、8人の座衆と師範代がチームになり、相互やりとりのなかで課題を深めていく。
――[AIDA]シーズン4は、10月にスタートします。
中尾:[AIDA]は希有な学びの場です。集まったボードメンバーや座衆同士で、答えがすぐに出ない「問い」に対し、深く深く考え続ける時間を、今から楽しみにしています。
▲シーズン2第3講「DOMMUNE」のスタジオではDJにも挑戦。坂本九『明日があるさ』などをチョイスし会場を沸かせた。
[AIDA]受講者インタビュー
vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長)
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)