[AIDA]受講者インタビューvol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)

受講者の声

[AIDA]は〝知の天下一武道会〟だ

安渕聖司さんは、三菱商事、GEキャピタル、ビザ・ワールドワイド・ジャパンなどのグローバル企業で要職を歴任し、日本人経営者としても活躍するビジネスリーダーのひとりだ。現在は、アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEOの任にある。「グローバルリーダー」というだけではない。大変な「読書家」でもあり、経済紙に書評の定期連載も持つ。歌舞伎などの日本文化の「後援者」であり、地域の学びを支える放課後NPOアフタースクールのようなNPOや一般社団法人に多数参画するなど、社会活動にも精力的な「ネットワーカー」でもある。

そんな、さまざまな場や知の間を越境する安渕さんだが、2015年から[AIDA]で学んでいる。今秋から始まるHyper-Editing Platform[AIDA]のシーズン4も、受講する予定だという。

安渕さんは[AIDA]に何を求めているのか。お話を伺った。

 

 

安渕聖司(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)

1979年、早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事へ入社。ハーバード・ビジネススクールMBA修了。GEキャピタル・ジャパン社長兼CEO、17年ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社代表取締役社長などを歴任。2019年より現職。INvolveが選ぶ「2020年のアライ経営者トップ50」の3位に選ばれる。著書に『GE世界基準の仕事術』など。兵庫県出身。

 

学びが「問い」として返ってくる場

 

――安渕さんが[AIDA]に初めて参加されたのは2015年。ハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]第11期からです。どのようなきっかけだったのでしょう?

安渕:出身が三菱商事だったので、周囲に[AIDA]受講者がいました。以前から松岡正剛座長のやっていた「連塾」にも参加しましたし、監修された丸善丸の内本店にあった実験的書店空間「松丸本舗」も覗きにいって、「松岡正剛の頭の中はどうなっているんだろう?」と興味関心を抱いていました。

一方で、すでにスタートしているものに、途中の期から参加するのは躊躇がありました。でもね、好奇心に負けたんです(笑)。なにせ11期のテーマは「神と仏のAIDA/聖と俗のAIDA」。ビジネスとはほど遠く感じるこのテーマを企業人に向けてどう語るのか。この耳で聞きたいと思いました。

 

――飛び込んだ[AIDA]はどんな場でしたか?

安渕:通常の研修は、新しい知識やスキルを獲得することを目的にしていますが、[AIDA]の学びはそうではありません。学び自体が根源的な「問い」として自分に返ってくる。例えば、自分が知っていたと思っていたことも、[AIDA]では「本当にそうか?」と揺さぶられます。「あなたの問題意識は何なのか」と常に突きつけられる状態だといったらいいでしょうか。[AIDA]はこれをクリアしたり、身につけたりしたから研修終了、ということになりません。「考え続けること」や「問い直したいこと」をわれわれ受講者に投げかけてくる場です。

▲シーズン2「メディアと市場のAIDA」第1講にて。隣にはボードメンバーの田中優子氏、村井純氏。

 

これからのリーダーに必要な「問いを持ち続ける力」

 

――「考え続ける」という[AIDA]の方向性は、これからのリーダーシップに強く関係しそうですね。

安渕:その通りです。今、求められていることは、カリスマ型のリーダーシップではなく、全人的なリーダーシップです。この10年でもリーダー像は大きく変わりました。ビジネス・スキルや知識だけでなく、人として「どう生きているのか」「どういう思いや問いを持っているのか」という核の部分が問われているのです。

 例えば、インクルージョンやダイバーシティというグローバルに掲げられた概念に対し、リーダーが求められているのは、「そもそも」を問い直し、自分の言葉で語りなおすことです。人権もそうですね。人権を大切にしよう、ではなく、人権とは何なのかと「問い」を立て、歴史的、文化的に、広く深く捉え直すということです。パンデミックや気候変動についても、マクロ、ミクロの両方から、自分の考えが求められる。

 そうですね、喩えるなら、今までは「鳥の目」「虫の目」で済んでいたところを、「宇宙の目」「微生物の目」というように、それぞれの解像度を一気にあげるということです。[AIDA]は、そのために自身を鍛え直す場とも言えるのではないでしょうか。

 

――これからのリーダーは、常に「そもそも」を問い直す、ということが求められているのですね。

安渕:そうです。安易な答えをだすことではなく、問いを持ち続けるということです。

[AIDA]はまさにそうしたあり様を求められる場です。実際、[AIDA]を終えると、「わかること」が増えるのではなく、「わからないこと」が増えていく(笑)。こんな体験、社会人になって味わえるとは思いませんでした。

 私たちは日頃、自分の課題を「簡単な言葉」で置き直して、わかったつもりになっています。ですが、それでは根源的なところには迫れません。複雑なものは複雑なものとして受け取る。わからないものを、わからないまま受け止める。「答えの出ない問い」をそのまま抱え続けることを、[AIDA]で学びました。

 私自身、[AIDA]では、「わからないことをわからないまま喋ろう」と意識しました。これは企業人にとってチャレンジングです。ビジネスの世界では、「わかること」「わかったこと」ばかり口にしますから。

▲シーズン2 第3講@ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」。隣に座るのはボードメンバーの佐藤優氏、ゲストの宇川直宏氏。スクリーンに投影されているのは安渕さんが作成した「自分史クロニクル」。

 

シーズンが終わってからが本当のスタート

――[AIDA]は「わからない」ことが重なっていくのですね。

安渕:課題図書も事前お題も容赦ないですから(笑)。中でも、「オートポイエーシス(自己創出)」の理論を語った河本英夫さん(2021年)、進化発生学者の倉谷滋さん(2020年)の講義と課題図書は、一筋縄ではいかず、「わからない」ことが増えました。しかもシーズンが終わっても、本当の意味では終わりではないんです。

[AIDA]は通常10月から3月ですが、ワンシーズンの受講が終わってから、「各自がテーマについてさらに思考する」という本当のスタートが始まると思っています。「わからなさ」を抱えたまま、思考を続けるということです。

 毎期テーマが異なり、セッションごとに課題図書が指定されているのも、受講する側としては大変ですが、間違いなく、世界は広がる。言い換えれば、ものの見方や判断軸が増えるということです。シーズンが終わったあとには、ゲストのその後の動向を追い、著書をチェックすることも多々あります。

 2016年の[AIDA]のテーマは、「名人と達人と職人」でしたが、この時のゲストだった現代美術家・舘鼻則孝さんの創作についてより知りたいと思い、アトリエにもお邪魔しました。2015年「神と仏のAIDA/聖と俗のAIDA」でゲストだった安藤礼二さん(文芸評論家)の著作は、今も追い続けています。

 

[AIDA]は 知の異種格闘技戦だ

――2020年に[AIDA]は、「ユニバーシティ」から、「プラットフォーム」へと場の仕立てを変えました。

安渕:現在のHyper-Editing Platform[AIDA]の大きな特徴は、江戸文化研究者の田中優子さんや社会学者の大澤真幸さんといったボードメンバーが加わり、全体の視点が多重化・多層化されたことです。それぞれの分野の第一人者が、毎期のテーマについて、われわれ受講者が想定しない角度から問いを持ち込み、意見を戦わす。どこからどんな弾が飛んでくるかわからない、「知の異種格闘技戦」です。私は、〝知の天下一武道会〟と呼んでいます。

――まさに[AIDA]が目指している姿です。「知」をめぐって異質を恐れず闘っている。

安渕:知の天下一武道会は、講義の時だけではありません。他の場でも起きています。

ゲストやボードメンバーだけでなく、受講者や聴講生の中に、とんでもない人が混じっているのです。作家のエージェント会社コルクを設立した佐渡島庸平さんとか、それぞれの分野で活躍している人や、すでに社会の中でエッジの立った人たちが学びに来ている。これはすごいことです。私たちも他の受講者のセッション内での発言から刺激を受けるし、学んでいます。

 もうひとつは、講義の間に参加するオンライン・プログラム「連」です。受講者が7~8名ずつのオンライングループに分かれ、AIDA師範代(コーチ)のもと、講義の前後で、知のエクササイズ(お題)に取り組みます。

 

[AIDA]の「連」の仕組みの図(Hyper-Editing Platform[AIDA]とは)。連では7、8人の座衆と師範代がチームになり、相互やりとりのなかで課題を深めていく。

 

学びが重なり合うオンライン・プログラム「連」

――「連」は、2020年に[AIDA]が「プラットフォーム」になってから立ち上がりました。

安渕:連に集う座衆(受講者)は所属も経歴も立場もバラバラですので、各自の属性だけでなくものの見方の異質性が持ち込まれることになります。異種格闘技戦です。

連では、講義の振り返りお題や、課題図書を事前に読んで答えるお題に回答していくわけですが、とにかくスピード重視でテンポ良く要点をついた回答を放る人、意外な見方をずばっと持ち込んでくる人など、自分が思いもしなかった回答、異質な回答が「連」に挙げられていくわけです。

この異質同士の重なり合いと、座衆のお題回答への師範代の指南によって、「連」にも自分にも変化が起きる。講義は月1回ですが、「連」があるので、学び自体は日常的に続きます。

 通常のコミュニティや同じ企業の集まりだと、どうしても同質化しやすいので、劇的で意外な変化はなかなか起きません。ですが[AIDA]の「連」は、見方の違うモノ同士が重層的に繋がり、混ざり合い、重なり合っていくので、化学反応が起きやすい。それを掻き回す立場の師範代は座衆の回答一つひとつに向き合い、そのプロセスを評価し可能性を示します。これは優れた仕組みであり、[AIDA]の強みになっていると思います。

 連の仲間は今でも繋がりがありますし、たまにリユニオンの飲み会をして情報交換をしています。

――10月からシーズン4が始まります。

安渕:すでに、スケジュールは空けています。今から開講を楽しみにしています。

シーズン2第4講では、セッション当日、座衆が「連」ごとに分かれて意見を交わし合った。

 

[AIDA]受講者インタビュー

vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長) 
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)

 

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