[AIDA]受講者インタビューvol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
[AIDA]で学ぶことは、自分への豊かな投資
北九州はJR小倉駅の北口から数分のところに、「cafe causa」はある。何かを始めたい人が集まるフリースペース併設のカフェバーだ。カウンターの向こうで、バーテンダーとしてお客さんを出迎えるのが、オーナーの遠矢弘毅さん。
「インキュベーションマネージャー」でもある遠矢さんは、北九州の地から「ひとづくり・まちづくり」に取り組んできた。そんな遠矢さんは、[AIDA]に何を求めたのか。遠矢さんにとっての[AIDA]での学びの意味を伺った。
遠矢弘毅
(株式会社ユナイトヴィジョンズ代表取締役、株式会社北九州家守舎代表取締役COOほか)
1967年鹿児島県生まれ。大学進学を機に北九州へ移住。リクルート、会計事務所を経て、財団法人北九州産業学術推進機構にて「インキュベーションマネージャー」となる。2010年にcafé causaをオープン。株式会社北九州家守舎代表取締役、ソーシャルビジネス支援のソシオファンド北九州理事、株式会社タンガテーブル取締役、九州産業大学シニアインキュベーションマネージャーなどを務め、北九州で、まちづくり、ひとづくりに携わり続けている。日本キャリアデザイン学会会員。
コロナ禍で自主「ロングバケーション」へ。学び直しのため[AIDA]へ
――遠矢さんは2021年に初めて[AIDA]を受講されました。きっかけはなんだったのでしょう?
遠矢:いちばん大きかったのは新型コロナウイルスの流行です。カフェのオーナー兼バーテンダーでもあるので、否応なくコロナ禍に巻き込まれました。周囲の飲食店は、コロナ禍に対応できるお店に改装したり、飲食店以外の新規事業を始めてみたり、といろいろな手立てをしていましたが、僕は違うことを考えました。コロナでお店の営業がままならなくなったのを「有給休暇」と捉えたんです。人生初のロングバケーションだと。
新規事業も店の改装も、投資ですよね。僕は同じ投資でも、自分に投資しようと思ったんです。具体的にはたくさん本を買い込んできて、片っ端から読みました。でも、学べば学ぶほど、「わからないことだらけ」というのがわかってくる。そんな時に、[AIDA]のことを思い出しました。
山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)とは以前から北九州のつながりがあり、[AIDA]のことを伺っていました。他にも数名から、[AIDA]や松岡正剛座長のことを耳にしていました。これまでは忙しいこともあって尻込みしていましたが、幸い、有給休暇中だった(笑)。今しかない、と2021年秋からの受講を決めました。
▲Season3 第1講で「日本語としるしのAIDA」への見方を語る遠矢さん
[AIDA]に集うボードメンバーや座衆は、まるで孔子の弟子・子路
――[AIDA]を受講してみて、いかがでしたか?
遠矢:まず驚いたことは、ボードメンバーにしろ、座衆(受講生)にしろ、深く物事を考えている人がこんな一堂に会する場があった、ということです。座衆には、大企業の中核を担うビジネスパーソンもたくさんいましたし、社会課題に向き合う起業家の方たちもいました。ご自身で著作をだしているような人が、座衆のひとりとして真摯に学んでいる。とても刺激的でしたし、学んでいる人たちに囲まれているという安心感もありました。
講義についていくのはもちろん大変でした。課題は多いですし、課題本も一筋縄ではいきません。でもこう考えたんです。50歳を過ぎて「本を読まなくちゃいけない、レポートを出さなくちゃいけない」と半ば自分で自分を強制して学ぶ機会って他にあるだろうか、と。しかも講義に参加するたびに、ショックを受けるわけです。
例えば、恥ずかしながら、僕は文化人類学者の小川さやかさん(Season2 第2講ゲスト)の存在をそれまで知りませんでした。ですが、実際に本楼で小川さんから「タンザニアの路上商人」の話を聞いて、その行動力と鋭さにうろたえました。小川さんが香港のチョンキンマンションに半年間住んで得た、その経験からくる知はインパクトがありましたね。
ボードメンバーも、突然宗教を語り出す佐藤優さんや、ソフトな語り口調なのに世界に鋭角に斬り込む大澤真幸さんなどがいて、そうした方々とリアルで同じ場に集っているということが、何より大きかった。
▲[AIDA]Season2「市場とメディアのAIDA」の第2講のゲストは文化人類学者の松村圭一郎氏と小川さやか氏。2人がフィールドワークの体験をもとに語る「市場とメディア」の見方は、ビジネスパーソンのそれとは大きく異なった。
僕自身は不足ばかり感じましたが、一方で[AIDA]の場で「意見の交換はできる」という手応えもありました。バーテンダーは下ネタから政治ネタまで対応しないといけないので、その経験が生きたかもしれません。座衆の方や松岡座長と休憩時間に言葉を交わすのも大きな刺激でした。[AIDA]の一座でつながっていくネットワークは変え難いものです。
僕は気づいてしまったんですけど、ボードメンバーや座衆は、子路(しろ)なんです。
――孔子の弟子のあの子路ですか?
遠矢:ええ。孔子がすごいことに間違いはありませんが、誰かが「孔子はすごい!」と気づく必要があったのだと思います。例えば子路は、孔子に会う以前からすでに名が知られていたようですが、その子路が孔子を認め、師と仰いだということも大きかった。
[AIDA]には師弟関係はありませんが、松岡座長を孔子とすると、ボードメンバーや座衆が子路となって、座長の言葉を翻訳したり、他の分野に繋げながら伝えようとしている。子路は、孔子と論争を辞さなかったようですが、まさに松岡座長とボードメンバーの関係性です。こうした場の求心力そのものが、AIDAの魅力のひとつでもあります。
▲大きなブビンガの机を囲み、ボードメンバーも座衆も顔を突き合わせながら交わし合う
いま必要なのは、答えの出ないことに耐える胆力
――遠矢さんは「まちづくり、ひとづくり」に携わっているそうですが、[AIDA]での学びは、どのように生かされていますか?
遠矢:[AIDA]で僕が身につけたのは、「答えの出ないことに耐える胆力」です。他の講座と異なり、[AIDA]では、「答えの用意された課題」がありません。ここでは「考え方」や「ものの見方」自体を学びます。しかし課題があるので、答えを求める必要はあるわけです。ですが、わかりやすい答えは見つかりません。そうすると、「簡単に答えが出ない」といいうことに耐える必要がある。
この力は、経営者、とくに中小企業の経営者にこそ、身につけるべきなんじゃないかと思うんです。例えば百貨店のはじまりを辿ると、日本に初めてデパートができたのは明治時代のことですが、その嚆矢は銀座の三越呉服店です。
時代が変わり、呉服店という商売が段々と成り立たなくなっていった。この変化の時期にぐっと耐えて、別の方向に打って出た。百貨店という業態が正解だとわからない中、勝負に出ているわけです。これは、「答えの出ないことに耐える胆力」でしょう。勇気と言い換えてもいいのですが、それを、[AIDA]で身につけることができるんです。
もうひとつは、俗にいう「リベラルアーツ」です。人と深く交わしあうベースにはやはり、リベラルアーツが必要です。この下地があるから、政治や宗教などのディープな話でさえ、話題にできる。「利益」とは関係ないところで、相手と深く交わしあわなければ、新しいものは生まれません。[AIDA]は課題で大量のアウトプットをさせられるのですが、そのアウトプットのおかげで、自分で考えて話せるようにもなってきた感覚があります。
――遠矢さんは今秋の参加で、[AIDA]3期連続です。
遠矢:[AIDA]を受講して仕事が具体的にこう変わった、とはまだ言えません。でも経営者として、わかってしまったんです。最も有効な投資先は「自分」である、と。[AIDA]で学ぶことは、自分への投資です。それがいろいろな形で、「まちづくり、ひとづくり」に生かされていく。その実感はあります。
それに、将来の理想像があるんです。
――どんな像ですか?
遠矢:落語に出てくるご隠居です。僕は80歳、90歳になっても元気だと思うのですが、その年齢になった時に、周囲から頼られる爺さんでいたいですね。そのためにまだまだ[AIDA]で研鑽を積むつもりです。
▲Season3 第3講 大阪合宿の夜のひとコマ。雑談から生まれる関係性も[AIDA]の一部だ。
[AIDA]受講者インタビュー
vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長)
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)