[AIDA]受講者インタビューvol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
地域で頑張る経営者にこそ、良質な学びの場が必要だ
山口典浩さんは、九州の地にあって、長年、建設会社の経営に携わった方であり、現在は社会起業大学・九州校校長として社会起業家の育成に努めている。そんな山口さんのテーマは、「地域をどうやって元気にするか」。そのためのヒントや考え方が、[AIDA]にはあるのだという。山口さんにとっての[AIDA]とは? たっぷりお話を伺った。
山口典浩(社会起業大学・九州校校長)
1953年福岡県生まれ。昭和27年創業の山口建設工業株式会社3代目経営者として2015年まで陣頭に立つ。2014年に社会起業家育成に特化したソーシャルビジネススクール「社会起業大学・九州校」を立ち上げる。2012年より11シーズン連続して[AIDA]を受講。他にも、田坂広志氏の田坂塾、ダイヤモンド社のドラッカー塾、北九州市立大学大学院マネジメント研究科科目履修など、自己研鑽を続ける。公益財団法人信頼資本財団副代表理事も務める。
北九州から日本を元気に
――山口さんは、社会起業大学・九州校の校長をされています。これはどんな学校なのですか?
山口:社会起業大学は、2010年設立に設立された、日本で初めての社会起業家育成に特化したソーシャルビジネススクールです。本校は東京にあります。その九州校を2014年に始めました。
もともとのきっかけは、3.11、東日本大震災です。東北の惨状を目の当たりにして、「自分たちで何かできないか」ということを考えました。その時に、遠回りかも知れませんが、自分たちの地域・地方から、より良い社会にしていくことではないか、と思ったのです。当時、山口建設工業の会長職にあったのですが、会社の連中からは道楽だと散々言われましたが(笑)。
――そんな山口さんが、なぜ[AIDA]に?
山口:もともと松岡(正剛)座長のことは、雑誌『遊』から追いかけていましたし、方法日本のトークセッション「連塾」にも何回か参加していました。[AIDA]の受講は2012年からです。大震災で感じた「何かをやらなければ」という思いと、社会起業大学九州校の設立と、[AIDA]の受講は、自分のなかですべて繋がっています。
――山口さんは、11シーズン連続して[AIDA]を受講されています。毎月九州から東京までいらっしゃるのも大変かと思いますが、続ける理由はどこあるのでしょう?
山口:正直にいいますと、受講する前は、もう少しわかりやすい講座かなと思っていたのですが、あにはからんや、取り付く島がない。交わされているのは、尋常じゃない情報の量です。しかしすぐに、「これはもっと奥に何かあるな」と気づきました。
「何かわからないけど面白い」といったらいいですかね。毎期、[AIDA]を受講するごとに、「わからないこと」が増えていくのが、たまらなく心地いい。いかに自分が知らないか。わかっていなかったか。そういうことに気づかされるんです。
最近私は、周囲に「好奇心の奴隷だ」と喧伝しているのですが、「好奇心」とは、わからないことを知りたい、という欲求です。[AIDA]は私の好奇心を常に刺激してくれます。わからないところに反射的に飛び込んでいるだけ、といえるかもしれませんが。
わからないことをわからないまま、どんどんどんどん詰め込んでいくと、ある時、1本の糸でスルスルっと繋がる瞬間があるんです。これがすごく面白い。それが次の「知りたい」や「何かやらねば」を生んでいきます。
▲[AIDA]シーズン3「日本語としるしのAIDA」第6講(最終講)にて、シーズンの学びを振り返る山口さん。右はボードメンバーの大澤真幸氏。
全国の中小企業の経営者にこそ、共に学ぶ場が必要
――山口さんは長く「経営者」の立場から社会に関わってきました。経営者にとって、[AIDA]はどんな意味を持つのでしょうか。
山口:経営についてお話からしますと、私の中で最終的に行き着いたのは、経営には「リベラルアーツ」のためのプラットフォームが必要である、ということでした。
例えば建設業界の経営者は、建設業界のことしかわからない。経営者になると、複数の(専門外の)分野が絡まる課題が増え、組織に合う/合わないの思想や価値観が問われるシーンも多くなります。そのため、視野が狭いと経営判断や組織マネジメントを誤ってしまうことがある。視野を広げるためには、リベラルアーツを学ぶ場が必要です。
ところが、地方の中小企業の経営者たちは、稼業に精一杯で、学ぶ時間を持っていません。学ぶ場も足りない。[AIDA]は私にとって、リベラルアーツを浴びる場です。
社会起業大学・九州校も、リベラルアーツのプラットフォームという意図を持っています。アントレプレナー(起業家)をゼロから育てるより、実際に地域で活躍する経営者たちが、稼業や収益だけでなく、リベラルアーツに触れ、社会課題に着目して新たなビジネスにチャレンジするほうがよっぽど効率がいいはずなんです。
――経営者にこそ学ぶ場が必要だと。
山口:以前、ドラッカー塾に通い、「マネジメントの父」と称されたピーター・ドラッカーについて学びました。ドラッカーは、「経営者は、学び続けなければならない」という言葉を残しています。マネジメントの根幹は、やはり「学び」なのです。
ドラッカーの思想を乱暴に要約すれば、大事なのは、マーケティングとイノベーションです。ドラッカーはマーケティングを「企業の第一の機能」、イノベーションを「企業の第二の機能」と定義しました。ドラッカーのいうマーケティングは顧客創造であり、イノベーションは社会に新しい満足度を生み出すことです。
経営者においては、特に顧客などのステイクホルダーとコミュニケーションしていく時に大事になってくるのが、アナロジーとメタファーだと思います。前期の[AIDA]シーズン3「日本語としるしのAIDA」でも日本語の見立てる力が取り上げられましたが、例えば、ロジックで伝えたほうがいい人もいれば、パッションで手渡したほうがいい人もいる。相手や場によって、柔軟に言い換えや喩えを用いて表現をしたほうが良いわけです。そうすると、多様な人と思いを共有していくことができます。アナロジーとメタファーは、言語化しにくいニュアンスを、共有しやすい形で言語化したり伝えたりすることを可能にします。
▲毎講、提出した課題を互いに見合いながら「見方」を広げていく座衆たち。
自分の中の「確信」を疑い、考えを「仮置き」する
――[AIDA]のシーズン3が2023年3月に終了したあと、山口さんの企画で「ハイパー番外篇」をされたとか。
山口:学びをインプットだけで終わらせるのはもったいないと思いまして。[AIDA]で一緒だった座衆(受講生)に声を掛け、北九州市で集まりました。地域に還元したいという思いもあったので、地元の経営者数人も誘い、ゲスト講師として、[AIDA]講師もされた下掛宝生流能楽師の安田登さんをお招きしました。カルスト台地の平尾台で洞窟探検をするなど、身体を使いながら、次期シーズン4のテーマに肖り、「身体性と意識のAIDA」をめぐる講義を聞くという有意義な時間でした。
この時、安田さんがおっしゃったことが、[AIDA]での学びと重なったのですが、それは、物事を直線的に見過ぎてやしないか、ということです。「2Dの視点になっている」と安田さんから指摘されました。「発想に時間という軸がない」と。
経営者は、どうしても目の前の利益をあげることに汲々とします。微分的といったらいいでしょうか。微小な瞬間的な変化に囚われてしまう。時間という軸を導入するということは、積分的であるということです。点ではなく、変化の積み重ねに目を向ける。1年、2年のタームで判断するのではなく、50年、100年先にどうなっているかを問うということです。
[AIDA]もそうですよね。生命のあり方とか、自己組織化する宇宙とか、そういう確たる答えがないものを問うことは、短期的にみれば役に立たないかもしれません。ですが、それでは視野狭窄なまま。生命や地球のストーリーに目を転じれば、遠くへの視点を持つことができます。
――視点を変えるというのは、簡単なことではありません。
山口:もし、自分の考えに確信を持っていたら、変われないと思うんですよね。ところが[AIDA]には、松岡座長だけなく、ボードメンバーの方々もいます。武邑光裕さん(メディア美学者)とか佐藤優さん(作家・元外務省主任分析官)といった、その道のトップの方々が集っています。座衆が属する「連」にも、多種多様な人材が集まっている。そういう人たちと交わしあうと、自分の考えも疑ってかからないといけなくなるわけです。自分の中の「確信」も疑う。自分の考えを「仮置き」する。この方法は、[AIDA]を受講することで獲得しました。
――10月から、[AIDA]シーズン4が始まります。が、どんな方にお勧めしますか?
山口:オンライン受講枠が拡大したので、地域で活躍している方が受講しやすくなります。日本各地からの受講者が増えてほしいですね。わからないことを面白がれる方であれば、[AIDA]は間違いなく刺激的です。私も今から、シーズン4の開講を楽しみにしています。
▲シーズン2 第3講@ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」。隣に座るのはボードメンバーの武邑光裕氏、ゲストの宇川直宏氏。スクリーンに投影されているのは山口さんが作成した「自分史クロニクル」。
[AIDA]受講者インタビュー
vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長)
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)