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「問い」が会社の未来をつくる。編集工学研究所と丸善雄松堂が提供する「ほんのれん」を活用して、問う力をビジネスに生かす実践を試みるポーラ・オルビスグループの事例。

いま、「問いの力」が注目されています。ポーラ・オルビスグループも、ビジネスの現場で「問いを立てる力」を重視する企業のひとつ。同グループは、POLAやORBISなどのブランドを中心に、個性豊かなマルチブランドで構成された企業グループです。

 

かねてより編集工学研究所と丸善雄松堂では、本を使って「問い」を誘発するコミュニケーション装置「ほんのれん」を開発。さまざまな組織に導入が進んでいます。さらに、編集工学研究所の代表・安藤昭子が2024年9月に『問いの編集力』を上梓しました。

 

今こそ「問う力」が求められている、という思いが共鳴し、12月某日、編集工学研究所のブックサロンスペース「本楼(ほんろう)」にて、ポーラ・オルビスグループの未来を担うみなさんに「問い」の重要性を体感いただく研修を実施しました。ポーラ・オルビスホールディングス社長の横手喜一氏と安藤の対談や「ほんのれん」を使ったワークショップの様子をお届けします。

 

ほんのれんは、毎月1つの「問い」と関連する5冊の「本」をお届けします。編集部員が「問い」を受けて、本を読んで対話するpodcast番組「ほんのれんラジオ」も人気です。

 

弊社代表安藤昭子による最新刊『問いの編集力』(ディスカバー・トゥエンティワン)。Amazonランキング「発明・特許」部門1位記録。

 

社会への違和感から「問い」が生まれる

2万冊の本に囲まれた「本楼」には、ポーラ・オルビスグループのさまざまな部署から24名の方々が集まってくださいました。期末の慌ただしい時期にもかかわらず、自主的に参加表明した意欲ある方々ばかり。参加者のみなさんは「本を読んで知識を得ることはできるけれど、『問い』を実践していく方法を知りたい」と興味津々です。

 

まずは、横手社長と代表安藤の対談からスタート。意外にも横手社長の「とある思い出」を掘り下げることに。

 

 

松岡正剛の「編集」への憧れ

安藤:横手社長と編集工学研究所の間には、実は深いご縁があるとお聞きしましたが……。

 

横手社長:そうなんです。

大学生のときに松岡正剛さんの『ハレとケの民俗学』(「プラネタリーブックス」)をたまたま買いました。その本のなかで、松岡さんが『遊』という雑誌をつくっていることも知り、古本屋で探して追いかけるように読んでいくと、めちゃくちゃおもしろかったんです。こういう編集のあり方があるのかと、そのかっこよさに憧れました。

そんなわけで、大学生のときから今に至るまで、私のものの考え方や興味関心のなかには、松岡正剛さんだったり編集工学研究所さん的なものがあるんです。

 

壇上に設えたのは、横手社長が古本屋で買い集めた『遊』や『ハレとケの民俗学』(プラネタリーブックス)。
「みなさんに見せたくて」とご自宅から持参くださいました。

 

壁にびっしりと本が並んだ、編集工学研究所ブックサロンスペース「本楼」。二人の対談に聞き入ります。

 

問いを立てるには、自分のフラジリティを大事にする

横手社長:雑誌ユリイカ』2024年11月号の松岡正剛追悼号を読んで、問いを立てていくうえで基本となることが松岡さんの書かれた『フラジャイル』という本に書いてあることに気づきました。

 

われわれは「感じやすい問題」をとりもどす必要がある。

それには「私」の壁を柔らかくして、

「私」の半径をせめて歩道橋よりも大きくする必要がある。

内なる誰かを外なる誰かと結びつけてみる必要がある[

 

自己の境界部分をできるだけ感じやすい状態にしておくことは、

もっとわかりやすくいえば泣き虫にしておくということは、

社会がかたちづくった勝者や強者の論理に与しないということであり、

つねに自分自身の半径をヴァルネラブルな傷つきやすさにおいておくということだ。

(松岡正剛『フラジャイル』ちくま学芸文庫, p.395)

 

ここに、問いを立てるときの思想を感じます。問いを立てるときには、自分のなかにある弱く小さなものも大切にして、そこから世の中を見ていくことが大事なのだろうと思います。

 

ユリイカ』2024年11月号 特集:松岡正剛

 

横手社長:私たちポーラ・オルビスグループは「A Person-Centered Management」という方針を取り、みなさんそれぞれのなかにある「内発的動機」を大事にしようとしています。これは「問い」を立てるうえでも同じことですよね。

 

安藤:まさに、そのとおりですね。「問い」というのは「これを受け入れられない」という拒絶の感覚からも生まれることが見えてきますね。横手社長の「問う力」の源には違和感があるのだと思います。

 

ともすると、「横手社長はそういう人だから」「自分とは違うんだよな」で終わらせてしまうことがありますが、それはもったいない。みなさん、子どものころは好奇心旺盛だったはずです。誰かのなかにも「問い」のタネは眠っているんです。今日は、問いを発芽させていく方法論をみなさんと共有していきたいと思います。

 

対談中、無数の「問い」を繰り出し、横手社長の「問う力」の源を明らかにした弊社代表安藤昭子。

 

問いが連鎖する「ほんのれん」を体験

編集工学研究所の姜舜伊のナビゲートで、「ほんのれん」の体験ワークが始まりました。まずは、4〜5人のグループに分かれて自己紹介。「私は◯◯な□□である」を複数重ねる、「たくさんの私」という編集ワークでもあります。

 

自己紹介「たくさんの私」。『問いの編集力』でも「たくさんの私」が、問いの土壌となることが紹介されています。

 

グループで自己紹介を始めると、「私は怠け者な努力家だ」という言葉に「えっ、どういうこと?」とツッコミが入ったり、「私は一日寝たら忘れるニワトリである」「私はよく食べる鉛筆である」「私は温泉に入らない温泉好きだ」などの言葉に座が湧いたり。この自己紹介から転じて、「この部署に配属されて1年です。組織の論理に馴染みかけているので、あらためて組織の論理を問い直してみたい」という発言も飛び出し、問いへの準備も万端です。

 

「一緒に働いている仲間だけれど、リモート勤務も多く、個人的なことを知る機会が少なかったのですごく面白いです」とみなさん一気に打ち解けた様子でした。

 

場が温まったら、いよいよ「ほんのれん」体験ワークの本編へ。「ほんのれん」は、毎月かわる「問い」に合わせて5冊の本を選書し、オリジナル冊子「旬感ノート」と共にお送りするサービスです。

 

各グループは、「ほんのれん」のバックナンバーのなかから、それぞれ「働くってなんだ?」「つながる?つながらない?」「なんで好きなの?」「いいチームって?」「時は金なり?」「こども力?」などの問いを選んで、挑みます。

 

ワークショップでは、本を読み始めるまえに、まずは「旬感ノート」の冊子に用意された問い、その名も「問いのれん」に答えて準備運動。

 

「ほんのれん」の「旬感ノート」。これまでに全22テーマがリリースされていて、「ほんのれん」導入機関には毎月、「旬感ノート」と5冊の選書「旬感本」などをお届けしています。

 

「旬感ノート」には、たとえば、こんな問いが書かれています。

Q:もし、世界に時計がなくなったら、何で時間を測る?(「時は金なり?」の問いページより)

 

「太陽かなあ」「わかる! 天体を見ると思う」「あとは、お腹の空き具合とか眠気とか……?」「そうそう、身体は使えそうですよね。僕は心臓の鼓動って書きました」「あっ、時間って言っても、一日を測るのか、秒を測るのかで違うのか!」

 

仲間同士で対話するからこそ、思わぬ気付きが得られます。

 

テーマ「時は金なり?」の「旬感ノート」に掲載されている、「問いのれん」のページ。本を読む前から、この問いへの回答を交わし合うことで気軽に対話を深めることができます。

 

ワークショップで「旬感ノート」に書き込んで対話している様子。「問いのれん」ページには、テーマごとに6つの問いが並んでいます。「こども力?」のテーマなら、「子どものころ不思議でたまらなかったことは?」「300年後の未来人に1つだけ質問できるなら、何を聞く?」など。

 

テーマに挑むための下地ができたら、いよいよ本へ入っていきます。グループごとに5冊の本を分担して、1人1冊の担当本を高速で読み進めます。

 

テーマごとに選ばれた5冊は、新書から骨太な研究書、科学書からエッセイまで。幅広い選書が特徴です。

 

本を読む時間は、15分足らず。読み方にも「目次読書」という編集工学研究所の提唱するメソッドを使います。いきなり本の中身に入らず、まずは、表紙や帯をじっくり読む。つづいて、目次をじっくり読む。本文をざっと流し読みするのはそのあとです。

 

ページを繰る音が会場に響いて、参加者のみなさんの集中力が伝わります。

 

それぞれが分担して読んだ本について共有するときにも、さまざまな「問い」が生まれていきます。

 

 

「『時計の社会史』を読むと、時計がいつ生まれたのか書いてありました。時間を守ることって、どうやら近代化と結びついているらしく。ということは、私が待ち合わせに遅れがちなのは、私が近代化されていないから……?」

 

「『タイパの経済学』を読んだのだけれど、コスパとタイパの違いがよくわからなくて……。」「そういえば、とあるビジネススクールの動画見放題プランを使うとき、見放題なら倍速で見ようと思っていっぱい動画を見たことがありましたが、あれもタイパ追求のせいですかね? あれ、それはコスパのほう?」

 

「『時は金なり』っていうことわざは、時間をお金に換算しているけど、いつからそうみなされたんでしょうね」「時給という概念が生まれるまえは、『時間をムダにしている』という感覚はなかったのかどうか気になります」

 

「問い」への自分なりの答えや、対話によって得られた発見などは、手元のノートや旬感ノートに書き留めて。

 

本の見方を借りると、自分たちだけでは生まれなかったような「問い」が噴出してきます。自分の体験と結びつけたり、自分たちの感覚を問い直してみたり。問いが出たら、誰かが仮説を立て、また本に戻る。本と対話によって問いが連鎖する「ほんのれん」を、ポーラ・オルビスグループのみなさんに体験いただきました 。ワークが進めば進むほど、みなさんのアタマには問いが溢れ、その表情がいっそうイキイキとしてきたのが印象的でした。

 

「ほんのれん」体験会が終わるころ、「旬感ノート」にはたくさんの問いと気づきが刻まれます。

 

「途中からの参加者」の使命として

現代のビジネスシーンにおいて、どうしてことさらに「問い」が重要になっているのでしょうか。横手社長にお聞きしました。

 

横手社長:

みなさんに読んでいただいた『問いの編集力』にこんな文章があります。

 

どんな情報も、私自身も、この世のあらゆる事柄も、

無数の関連する情報を引き連れながらなんらかの文脈の途上にある。

誰もがこの世界への途中からの参加者なのだ。

「編集力」とはこの眼前に広がる無造作な関係性に臆せず入り込んでいく力であり、

「問い」は今見えている風景に切り込みを入れるナイフなのである。

(安藤昭子『問いの編集力』ディスカバー・トゥエンティワン, p.177)

 

「誰もが、途中からの参加者」。この一文がとくに重要です。ここにいるみなさん全員が私も含めて「途中からの参加者」です。

 

100周年になろうとする会社のなかで、私たちは全員途中からの参加者です。今見えている風景にナイフを入れなければ、「途中からの参加者」たる役割を果たせません。

 

この会社はこれでいいのか、問い続けていくことで、未来を紡いでいくことができます。これから100年、200年と会社を続けていくための原動力が『問い』なのです。

 

「問い」によって、自分も変わり、仲間も変わり、会社も変わる。

この世界の「途中からの参加者」たる私たちにとって「問い」こそが、この世界の将来を切り開く武器なのだと実感する半日となりました。

 

 

社会による規定より、自分の「問い」を優位にする

ポーラ・オルビスグループでは、グループ横断研修のなかで課題本を読んで共有する時間が設けられて、それが人気コンテンツなのだとか。本を通じてものの見方を広げることに慣れているポーラ・オルビスグループのみなさんにとって、今日のワークショップはどんな体験になったのでしょう。声をお聞きしました。 

 

「思考をやめないことの重要性に改めて気づいた。

問いをたてて、思考を巡らせることで、自分はこういうことを思っていたのか!という、自分でも知らない自分の考えに触れることができた。それが自己分析にもつながり、自分の考えの幅の広がりや、さらに問をたてるきっかけになっていると感じた。」

 

「なんとなくでも仕事ができてしまうこともあるが、それはなぜ?とか、本当にこれをやるべきなのか?という、真の目的がなんであるのかということを常に意識して、問いをもって仕事をすることを大事にしたいと思う。そうすると、いつも見ている何気ない景色がきっともっと意味を持って変わってくると思う。」

 

「言葉を紡ぐ意味について、気づきがあった。

コミュニケーションという曖昧な言葉で片付けられがちな言葉のやり取りを、ある意味ロジカルに分類することで非常に腹落ちしたので、すぐに実践にも生かせそう」

 

「ワークでは、中々、考えが浮かんでこず、いかに頭が凝り固まっているか実感させられました。既成概念にとらわれず、柔らかい頭と心であることが、新たな気づきや視点につながり、問いを立てることができるようになるのだなと感じました。」

 

「社会による規定よりも自分の直感や好奇心を優位にすることで豊かな問いが立ち上がってくる、ということを実感できた4時間でした。」

 

これまで「ほんのれん」が取り上げたテーマは20以上。研修の内容に応じて、テーマ選定も可能です。もちろん、毎月購読のサービスもご利用いただけます。みなさんなら、どんな「問い」を考えたいですか?

 

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